| 「グローカル天理」巻頭言集 井上昭夫
第一巻 5号
「自然資本主義」思想の台頭
アメリカのコロラド州にあるシンクタンク・ロッキーマウンテン研究所(RMI)の所長であるA・ロビンズとL・ロビンズ女史、そして著名な経営評論家のP・ホーケンが、1999年共著で『Natural
Capitalism: Creating the Next Industrial Revolution』(『自然資本主義:次期産業革命の創造』仮訳)という本を出版した。この400頁に及ぶ大冊が提示する新しい経済思想のパラダイムは、いま欧米において環境破壊と人類の開発の未来を考える政財官界やNGOの中で、熱い注目を浴びている。すでに独語の翻訳は出版され、仏、露、中、葡、日本語の翻訳がいま進行中である。
ある書評は、アダム・スミスの『国富論』が第一次産業革命のバイブルであったとすれば、『自然資本主義』は第二次産業革命のバイブルになるであろうと絶賛している。伝統的資本主義の産業構造は、人的資本、財的資本、物的資本の三つを基本的な資本と見なし、富を追求する手段として自然を搾取してきた。
しかし、自然を資本とみる「自然資本主義」の新しい考え方は、自然の生態系のシステムや働きに学ぶ事によって、逆に環境や組織のあり方を改善し、人類が豊かになる方法を啓発しながら、組織に改革をもたらすモデルを提案・実践させることで、その正統性をプラグマティックに証明して見せるという点にある。
さまざまな企業や行政が、RMIのコンサルティングを受け、環境保全と経済発展を有機的に両立させ、著しい純益を生み出しているといわれる。顧客には、日本の著名なゼネコンも含まれている。
クリントン大統領は、昨年の11月、イタリアのフローレンスにおける演説において、この著が主張する「自然資本主義」の意義についてふれ、珍しく一出版社の本の宣伝を行った。
RMIの月報『RMI Solutions』2000年4月号は、クリントン演説の部分を次のように引用している。「ここ数年私は、経済成長かそれとも環境保全、環境改善かという二者択一をする必要はなく、私たちにとって必要なのは、産業時代が採用してきたエネルギーの使用パターンを断念することであると強く確信するに到った。……そこで、私は皆様方全員に、一冊の本を読んで頂く事を強くお勧めしたい。この場所で、その本を売り歩きたいほどだ」と述べ、「自然資本主義」の熱狂的な支持者として宣伝を行ったという。
クリントンは「この書は、現在私たちが、環境を悪化させるのではなく、浄化することによって、さらに豊かになることを可能にするテクノロジーを持ち、またそのようなテクノロジーが私たちの視野にすでに入っているということを、根本的に証明しているのは議論の余地がない」と続ける。
本年4月カリフォルニア工科大学で開かれた「キャンパス緑化・コミュニティー緑化」というシンポジウムで、筆者は地球温暖化を防ぐ竹林の利活用と、産業廃棄物を素材として我が国が開発した、セメントや木材に代わる先端テクノロジーの紹介を行った。「自然資本主義」の最新情報は、その時基調報告を行ったRMIのC・C・ロッペイック上級研究員から得たものである。氏と討論しながら、自然は神の身体であり、その生態系の機能を神の働きと教えられる天理教の自然観に、世界の高山がだんだんとその実証をたずさえて下山・接近してくるという実感を持った。
教学を学ぶ者にとって高みの見物を決め込んでいる時ではない。 |