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「グローカル天理」巻頭言集 井上昭夫


2002年11月号
「谷底」・アフガンに見る芥子栽培と地雷

 現在のアフガニスタンは、治安と経済において世界の「谷底」国家の代表であろう。30数年前地上の桃源郷ともいわれた現在のこの国のかたちは、まさにおふでさきに啓示された「たにそこ」という言葉がぴったりである。その「谷底」は、20数年間に及ぶ「たたかい」によって形成されたものであるが、その極めつけは、9・11米同時多発テロの「うらみ」の爆発とも、報復「かえし」ともとれる米軍が投下した約1万8千発の爆弾やミサイルの「てんび火のあめ」であった。また、復興「ふしん」を阻む1200万個以上といわれる未処理の地雷、増加の一途を辿る芥子栽培の複雑な事情が、その「谷底」の「もよふ」をさらに険しいものにしている。

 「このはなしなんとをもふてきいている てんび火のあめうみわつなみや」「こらほどの月日の心しんバいをせかいぢうハなんとをもてる」(6─116、117)というおふでさきの言葉が一瞬に浮上して、我が身にするどく迫ってくる。

 『地雷撲滅をめざす技術』(下井信浩著)によれば、世界の紛争地域に未処理のまま埋設され、現在も放置されている地雷の数は約7000万個といわれる。また、対人地雷による被害は22分に1人の割合で起こっている。何故地雷なのか。ベトナム戦争では、直径7センチメートル、重さ150グラム、価格が1ドル程度の対人地雷が使われた。この金属探知器に探知され難いプラスチック製の地雷は、致命的な殺傷力を持たず、大人の片足程度を飛散させるように設計されている。負傷者を死に至らしめず、負傷による痛みと苦しみによって兵士たちの士気を低下させ、負傷者を担架で担ぎ、看護する健常者の数を戦場から奪うことが可能だからだ。

 地雷による負傷者は身体障害者となって生存し、治療や生活保障のための出費は対戦国の大きな経済負担となるから、厭戦気分を起こさせるのに効果があるというわけだ。筆者は22年前、ペシャワールの難民テント村の野戦病院を薬をもって訪れたことがあり、今回もカブールやカンダハールの人混みの中で片足の人たちをあちこちで目にした。地雷は非戦闘員である女性や子どもたちを殺傷するばかりでなく、地雷を埋没された土地は、復興にとって最も大切な農地を使用不可能にし、森林や河川への立ち入りを困難にする。

 「谷底」からの「よなおり」と「ふしん」を拒むものは、地雷や地方軍閥の跋扈だけではない。もう一つに芥子栽培という大きな問題がある。大麦は1キロ40セントでしか売れないが、芥子は300ドルで売れる(「大豊作」The Economist 11月12日号)。また5年続いた大干ばつに加えて、芥子栽培にとられる水は膨大な量となり、その地域の砂漠化は進み、津波のような砂に5メートルも土の家が埋まってしまったという話もある(「芥子がもたらす旱魃」TIME 10月21号)。

 1999年、アフガニスタンは全世界で6000トンともいわれる芥子栽培の75%を産出している(L. P. Goodson, Afghanistanユs Endless War )。カルザイ政権は10年計画で芥子栽培を全面廃止するという。その目的を達成するには、400万人といわれる芥子依存農民のために、代替作物を開発しなければならない。無理矢理に芥子栽培を禁止すれば、400万人が国内難民となり、犯罪も増える。問題を根本的に解決するためには、芥子そのものを輸入し、ヘロインに精製し売りさばくメカニズムを断ち切らなければならない。国連や関係諸外国はどうするのか。

 
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