|
「グローカル天理」巻頭言集 井上昭夫
2002年3月号
「天理異文化伝道」学への期待
『21世紀/私立大学の挑戦』(法政大学出版局)の序章「大学改革の新次元」において、著者・清成忠男法政大学総長は、競争力を有する研究型の大学の形成がわが国では重要としながら、大学改革の教育の中味に関して次の6課題を挙げている。
1)教育の質的向上と新しい学習ニーズへの対応、
2)グローバルな標準への対応、
3)社会人対象の職業人・高度職業人養成への対応、
4)産学協同への取り組み、
5)大学発ベンチャーの推進、
6)自己点検・自己評価と情報の開示。
いずれも大学改革において重要な課題であるが、特に宗教私学天理大学においては、1)4) 6)の改革が2)3)5)の課題に挑戦する前提として優先されるべきであろうと考えられる。
平成15年度より実施される天理大学改革においては、「建学の精神」に沿った新しいカリキュラムとして「国際協力論(実習を含む)」や「天理異文化伝道」が組み込まれる予定だ。前者は献身のプログラムを通して異文化への体験知を導くことを目的とし、後者は海外伝道者を養成するという「建学の精神」に直結した講座である。特に後者は教団のグローバルな海外伝道の長い歴史を通して培われた貴重な経験が学問的に検証されるわけで、その意味で両講座は4)の産学協同ならぬ教学協働への取り組みという課題に応えるものであろう。
また、「天理異文化伝道」と表裏をなすものは、10カ国語による「伝道語学」である。しかし、長い歴史を持つ本学独自のこの講座は初期の目的を十分に達成しているとは言えない。他の科目と同様に自己点検・自己評価を行い、内部監査を進め、その情報を開示すべきであろう。
「天理異文化伝道」学には、それぞれの語学と異文化を通底し横断する共通理念が求められる。ばらばらにやっていては意味がない。教典の翻訳本をテキストにし、特殊な個々人の異文化伝道体験を伝えるだけでは学問たり得ない。「天理異文化伝道」は将来「天理異文化伝道学」ないし「天理世界伝道学」の構築を視座において進められるべきであるから、宗教学と神学からの協力が必要だ。そのためにはその周縁に位置する異文化間コミュニケーションや、国際政治学、文化人類学、社会学、歴史学、地域学などといった学際的な知識も必要となる。
つまり、本来異文化に生き、異文化を超えることを目指す海外伝道者は、自国伝道者と異なり、伝道に向かう使命感や強烈な持続的意志だけではなく、伝道圏に関する総合的な知識が要求される。「天理異文化伝道」周縁の学問領域における研鑽が必要となるのである。それを逆に言えば、天理大学が提供する全ての講座は、「建学の精神」に直結する「天理異文化伝道」学の未来を側面から支える役割を持っていると言っても過言ではない。
こういう次第で、天理大学の「建学の精神」は「天理異文化伝道」学が他の学問と有機的に関連づけられ協調することにより、その未来展開の視野が開かれる。つまり、宗教私学としての天理大学の特殊性は、改革に伴う新しい「天理異文化伝道」や「国際協力論」などの講座をもって、その普遍性を持つことが出来るとも言えるのである。この原則を軽視すると、天理大学「建学の精神」の個別性は普遍のなかに埋没してしまい、改革の目的は達成されない。
改革に際しては、こういったカリキュラム間の特殊と普遍の関係を構造的に捉え、関連研究・教育の分野だけではなく、関係者は組織・経営・予算の立場からも両者を常時鳥瞰的に捉えておくことが重要であろう。
|