| 「グローカル天理」巻頭言集 井上昭夫
2004年12月号
「殿様蛙のサミット・人類のサミット」
昭和58年のことである。ホノルルにおいて天理大学はハワイ大学と共催で「新太平洋時代の心のコミュニケーション」という国際シンポジウムを開催した。総理大臣であった中曽根康弘さんやジョージ有吉知事なども熱いメッセージをよせ、マスメディアも大きく取り上げた。そのレセプションの挨拶で、日本総領事であった堂乃脇光朗さんが富士山頂での蛙のサミットという面白い話をされたのを、アメリカ大統領選挙のブッシュさんの演説をテレビで聞きながらふと想い出した。
堂乃脇さんのお話は、昔々富士山を挟んだ国を制覇していた殿様蛙が、相手の国がいつ攻めてくるのかが心配になり、富士山頂でサミット平和会談を開くことになった。富士山の反対側から殿様蛙の一行が登山道を登って会場に到着する。殿様蛙が二本足でしっかりと山頂に立ち、遙か相手国を見下ろすと、自国と全く同じ町並みや風景が確認されたので、お互いに大いに安堵して平和会談は成功したというお話である。蛙の目玉は後ろについているというのが話の落ちであった。
ところが人間の目は前方についている。米国大統領も人間であるからその目も前方についている。しかし、その心は殿様蛙と同じで、調べたこともない富士山の向こうの国の大統領が、大量破壊兵器を隠し持っているかどうかが気になって仕方がない。そこで山頂に登って見ると、相手国には自国と同じように大量破壊兵器をもっているのが確認されたというわけだ。
米国代表団は、イラクともつながっている9/11事件の張本人ビン・ラディンを捕まえて突き出せ、さもないとアフガニスタンを空爆するとタリバーン代表団に迫った。タリバーン側は、第三国においてビン・ラディンが犯人であるかどうかの公平な裁判を行うことをアメリカが約束するなら身柄は差し出すと応えたのだが、米国はその申し出を断った。彼らはもはや信用出来ないというのがその理由であった。筆者はそのやりとりを簡略に伝えた日の新聞記事を今でも決して忘れていない。これは大変なことになると思ったからである。
現在のイラクやアフガニスタンの悲惨極まる現状も、この話し合いを一方的に無視したことから始まっているからだ。国際会議では、相手国を信用できないからこそ、話し合いを行うという本音の部分がある。その原則を拒否する者には、力で相手国をやっつけるという選択肢しかない。米国は第二次世界大戦以来もっとも数多く他国に戦争を仕掛けた国である。侵攻の理由は、端的に言って、文化・宗教的価値観の相違を無視した、彼らの掲げる正義や民主主義にあるが、その背景にはしたたかな経済的エゴイズムが隠されていることは誰でも知っている。
「話し合い」を拒絶して、アメリカが行った一方的な判断は世界を不幸にするということを、「世界を鏡」として私たちは学ばねばならない。ビン・ラディンはいまだに逮捕されるどころか、先日アルジャジーラのテレビに突如現れ、自ら9/11の仕掛け人であることを告白し、日本もテロの対象国の中に含まれていることを警告した。
タリバーンを追い出すために、米軍に協力した北方同盟の軍閥は、今やしっかりと群雄割拠し、カルザイ政権のお荷物となり、麻薬の原料となる芥子栽培でも巨大な軍資金を得ている。世界の80%に近い麻薬がアフガニスタンで生産されているが、毎年生産高は増加の一途を辿っている。しかし、麻薬撲滅の妙案は未だない。芥子栽培を撲滅しない限り、アフガニスタンやイラクの復興はあり得ないのは確実である。テロと麻薬、この二つはしっかりと背後でつながっているからだ。
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