| 「グローカル天理」巻頭言集 井上昭夫
2004年3月号
「イラン地震被災地と「土の文化」の再建」
2001年の1月26日インド西部で大地震が発生した。
崩壊した村は約九千、死者は数十万人と言われた。
おやさと研究所では、その年の7月、被災地へ自費参加を含めた10名の専門家を派遣し、
地震被災地の現場を視察した。
それが天理大学の地域文化研究センターの「国際参加」プロジェクトに継続された。
現地のNGOと協働して学生たちは、貯水のためのチェックダムや被災者仮設のための
ドーム型のアースバッグ・シェルターの建築をはじめ、
石庭の造園や竹の植樹などにその活動を展開していった。
チェックダム保水効果により、周辺の井戸は水を満たし、
その結果、収穫された農作物の生産高は目立って増加し農民に喜ばれた。
本年2004年の2月から3月にかけては、今回はドームではなく、木材と竹を利活用した屋根を持つ、
高さ4m巾4m長さ6m余りの方形土嚢塀による図書室を建設する。
積み上げる土嚢数は1300個余りになるだろう。
2003年の12月26日、イラン東南部のバム市でマグニチュード6.5の大地震が発生した。
死者数は4万人以上と推測される。古代都市バムはシルクロードの中継地で、
地下水にめぐまれたオアシスとして栄えた。今回の地震では、城塞遺跡もほぼ全壊している。
砂漠地帯では都市や村も日干し煉瓦や泥土を素材として築かれてきた。
しかし、ドーム状やボールト状の建造物の全壊は見られなかったという。
インド西部の地震においても、土を素材としたドーム建築(ボンガ)の耐震構造は、
他の鉄筋や木造などの建造物よりも強固であることが証明されている。
私たちはそのモデルを現在も、学内や神戸、インドで構築しているのである。
この「土の文化」の古代建築技術から、独自の生態建築論(Arcology)という思想を創出した
パウロ・ソレリというイタリア系の建築・デザイナーがいる。
日干し煉瓦を自ら毎日延々と一個一個同志と積み上げて、それが巨大な建造群に
いまや成長している。アリゾナにあるアルコサンティと呼ばれるこの都市の人口は、
いまだ100名に満たないが、訪れる観光客は後を絶たない。
彼は「エネルギーが均等性のどん底にねむるとき、時は止まる」(『生態建築論』)などと述べ、
この都市は完成するのに600年位はかかるだろうと泰然自若としている。
一方カリフォルニアのヘスペリア砂漠地帯では、土嚢によるスーパアドベと呼ばれるドーム建築を
推進している建築家に、イラン出身のナーダ・カリーリがいる。
天理大学の「国際参加」プロジェクトにおける泥土へのこだわりは、
「元の理」の「泥海」が暗示するエコロジーに導かれて、
この両天才に現場で筆者が出会った瞬間から始まっていたのかも知れない。
Independentというインターネット新聞(04 Jan. 2004)によれば、
「有刺鉄線と泥土で町は再建できる」というタイトルでカリーリの土嚢による建築技術が紹介されている。
「土の文化」がイランの特徴として歴史的に知られているのに、
なぜ官僚は鉄骨を取り入れた現代建築でないと都市再建ができないというのか。
伝統に則した正しい再建の答えは、
泥土を素材とした彼のスーパアドベ建築技術を採用することにあるのであって
「1000人の兵隊と100人の建築学専攻の学生を貸してくれば、バム市を再建してみせる」
とカリーリは主張している。
強固な耐震構造を持ち、安価で安全な土嚢先端技術は、デザインに工夫を加えればさらに景観的にも
芸術的にも価値のあるものになる可能性を秘めている。
正しいことが採用されないのは、無知というより経済効果が伴わないという、
いつもの企業や官僚・政治家の功利主義にあるからだろう。
「国際参加」プロジェクトは、この功利的価値観にも挑戦しているのである。
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