対談相手
(めいらくグループ代表)
「天の理」に合わせて生きる
〜便所掃除が人間と会社を変えた〜
(前文)
従来は異質の関係と考えられていた「経営」と「宗教」だが、ほんとうにそうなのか今、その
関係が問い直されている。スジャータで知られる「めいらく」グループを率いる日比会長は、
早くから職場を人間形成の場として捉え、「トイレ掃除」を企業経営の根幹に置くなど、両者
の融合を図り、成功したユニークな経営者である。
一方、井上センター長は、学生を引き連れインドで土嚢住居の築造に取り組むなど活発なボ
ランティア活動に取り組んでいる。アフガニスタンの復興にも深く関わっている。国内外で精
力的に活動を続ける井上センター長と日比会長の数時間に及ぶ対談は、極めて示唆に富む内容
となった。
(本文)
井上 今、アメリカの大企業や経営者の間では企業と宗教、あるいは経営とスピリチュアリテ
ィーなどといった、これまで相容れなかった両者の関係に注目を置き始めています。と
いうのは経営にスピチュアリー、あるいはスピリットを導入した企業が、いずれも好業
績を上げているからです。
従来の経営学では、信仰とビジネスは互いに融和することのない、いわば異質な世界で
した。信仰は「聖」、利益追求を目的とする企業は「俗」というわけです。ところが昨
今、これまでずっと分断されてきた、この両者を橋渡ししょうとする書物が、ベストセ
ラーになるなどの現象が見られます。さらには欧米の権威ある経営学会などが、この潮
流を新しい時代の企業革命として捉え始めたように思うのです。これは極めて注目すべ
き社会現象ではないでしょうか。
このような流れのなかにあって、「めいらく」グループの場合は、すでに創業時に会社
経営の根幹に宗教、スピリットを取り入れられ、見事な成果を上げておられます。今、
お話した二つの異質の世界の融合という意味で、「めいらく」は先駆者なのですが経営
に宗教、スピリットを導入された動機、また、それによってもたらされる経営効果とい
うものについて、例を挙げてお話いただければ非常に参考になると思います。
日比 井上先生が今おっしゃった潮流を先取りするといったような感覚は、私どもにはまった
くなく、私自身がおかれた環境、あるいは天理教との巡り合いなどを通じて、因縁とい
いますか、親神さまに導かれるまま今日に至ったというのが実情です。
「めいらく」は、お蔭さまで創業六十周年を迎えますが、長く企業経営に携わってきま
すと否応なく、いろんな体験を積まされます。これまでに何度も会社の危機に直面して
きました。そのたびに私は思うのです。「天理教の教えと企業の理念とは、まったく同
一ではないか」と。幾度も困難に遭遇し、それを乗り越えていくうちに、いつしか私は
、「天の理に合わせて生きる」「天の理に合わせて生きなければならない」との人生観
を持つに至ったのです。
アメリカの社会経済学者であるピーター・ドラッカー博士は、「経営者にとって大事な
ことは技術開発でもアイディアでもない。品位であると」といったようなことを自著で
述べておられます。私はまったく、その通りだと思っています。
博士の本を読み、このような一節に触れ、感銘を受けることができるというのも、私が
天理教を信仰しているからだと思うのです。私の場合、すべてが親神さまのお蔭という
ことに帰結します。
昭和六十二年のことでした。私どもの工場で機械が故障し、過酸化水素が商品に残留す
るという事故を起こしてしまいました。不良品はほんの一部に過ぎなかったのですが、
新聞やテレビが、すべての商品に混入したように報道するものですから、大変な騒ぎに
なってしまった。
ただちに生産を中止し、市場に出回っている商品を全部回収したのですが、約四十億円
にも上る返品の山を抱え途方に暮れてしまいました。さらに取引先から次々に取引停止
の知らせが入ってきます。まさに会社存亡の危機に直面したのです。
そんなとき、大阪のある大手のスーパーが、「商品を並べてやるから三千万円持ってこ
い」といってきました。なにしろ、こちらは生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていま
す。藁にもすがる思いで、三千万円を持参しました。すると「三千万円ではだめだ。五
千万円持ってこい」というのです。それで、五千万円を持っていくと、今度は「八千万
円持ってこい」と。
背に腹は変えられぬと、泣く泣く八千万円持って行きました。すると今度は「一億円だ
」というのです。さすがに私も「もう結構です」と取引を断わって帰ってきましたが、
そのときは、「これが噂に聞く大阪商人か」と、衝撃を受けたものでした。
一方、救いの手を差し伸べてくださったのが、イトーヨーカ堂の創業者である伊藤雅俊
会長でした。伊藤さんは、「メーカーが困っているときに助けるのは自分たちの務め」
とおっしゃり、積極的に商品を購入してくださり、傘下のグループ会社にも「めいらく
を支援してやってくれ」と呼びかけてくださったのです。そのお蔭で、東京地区は取引
停止を免れ、まったく無傷で市場を残すことができました。
井上 両極端の対応を経験されたのですね。しかし、この事故の体験こそが、その後の「めい
らく」の強味になったのではないでしょうか。もし、この体験がなければ今の「めいら
く」はなかったかもしれませんね。
日比 まったく、おっしゃる通りです。当時、私どもの工場では、かなりの不良品を出してお
り、私も頭を痛めていました。何とか工場の体質改善を図りたいと、品質管理を徹底す
るよう教育し、責任者を代えるなど、いろんな手を打ってみるのですが、それでもロス
はなかなか減少しなかったのです。
ところが、この事件を契機に、あれほど努力してもできなかった体質改善が、いっぺん
にできてしまった。生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされ、社員のモラルが一気に高まり
、その結果、不良品がピタッと出なくなりました。事故を引き起こし百数十億円の損害
を出しましたが、不良品が出なくなった分を計算しますと、差し引き一千億円以上のプ
ラスになりました。さらには事故後、会社の業績がどんどん伸び出したのです。
私はこの事故を親神さまの贈り物と受けとめています。「めいらく」の将来のために与
えてくださった大いなる天恵だと思っているのです。企業も人も、叩かれ、踏みつけら
れることで逞しくなり「節」ができます。その節が、より青々とした力強い芽を吹くの
です。私は天理教の教えをうけていたものですから、この真理が実に素直に、すっと胸
に入ってきました。
経営学とは宇宙の摂理そのもの。宇宙の摂理を踏みはずすようなことをしなければ会社
は自ずと発展、繁栄するものと思っています。
「掃除」が人間と組織を変える
井上 仕事の「仕」の上に「奉」をつけると「奉仕」、「事」の下に「業」をつけると「事業
」になります。つまり仕事とは、「事業を通して社会に奉仕する」ということになりま
すね。日比会長は経営を通じて、さまざまな悟りを得られたと思います。さきほどお話
にあった伊藤会長も、きっと宇宙の原理を体感しておられたのでしょうね。
日比 伊藤さんの経営方針は、天理教の教えと、そっくりなのですよ。宇宙の摂理にのっとっ
た経営です。「お客さま第一」を掛け声ではなく、誠心誠意、実践してこられました 。
出入り業者が気に入らなければ普通は変えますが、ヨーカ堂さんは頑固なほど出入り業
者を変えるようなことはされません。
これを会社に置き換えてみますと私はこう思うのです。経営者なら、だれでも出来の悪
い社員よりも優秀な社員が欲しいはずです。もし可能なら社員は優秀な者ばかりにした
いでしょう。しかし、もし、そのようなことをすれば、きっとまた新たに会社にとって
不都合な社員が現れると思うのです。あるいは、もっと他の新たな問題を生じることに
なるかもしれません。
「水清くして魚住まず」というように、優秀な者も出来の悪い者も、ともに混在してこ
そ組織としての調和が保てるのですね。このことは、天理教を信仰していますと、とて
もよくわかります。
井上 会長はかつて、会社の売上を横領した社員に「警察に出頭するか、それとも今後は心を
入れ替え真面目に働くか。どちらを選ぶか」と直談判されたそうですね(笑)。
日比 こんなふうに問い詰められると、だれでも警察よりも、真面目に働く方を選びますね(
笑)。実際、そんな社員のほとんどはその後、心を改め会社のために一生懸命に働いて
くれるようになりました。真面目に働くことによって、彼ら自身の悪因縁、あるいは芳
しくない性質といったものが全部、良い方向に変化します。
彼らのなかには今では会社の重要な地位に就いている者もおり、会社のために貢献して
くれています。「悪いが良い、良いが悪い」で、まさにお「道」そのものです。
井上 幕末時代開国にあたって大変貢献した殿様がいます。この人は五十数人の側室を囲って
いたといわれていますが、その側室を四、五人に減らさねばならない状況になったとき
、係りの者に「美人から減らせ」といったそうです。美人はリストラしても、すぐに次
の口が掛かるが、不美人はそうはいかないと(笑)。
彼のような人物もまた、宇宙の真理を体感していたのではなかろうかと、私は考えます
。ところで、「めいらく」は掃除を会社経営の基盤に据えておられます。「掃除」とい
うと、私は、道元禅師の『正法眼蔵』の「渓声山色」という一節を思い出します。
香厳智閑という学僧がおりまして、ある日禅師から「時間と空間を超えた真理をひとこ
とで説明しなさい」といわれました。しかし彼は説明できません。失意のなか、あると
き庭を竹箒で掃いていると、瓦のかけらが跳ねて、そばの竹に当たったのですね。その
音の響きを聞き、彼は豁然として大悟を得ました。「竹の一撃の響きに、知識に頼るこ
とを失った」と師に告げ、禅師は「この者は知識への執着を脱して道に達した」と認可
を与えたのです。すなわち智閑は掃除によって開眼しました。
「めいらくも」掃除に力点をおいておられます。なぜ「掃除」なのか、そのあたりを、
お話いただければと思います。
日比 私にとって「掃除」は、経営のあるべき姿を具現化する一手段だと思っています。具体
的に申し上げますと、私は四十歳のときに天理教に入信しました。母が六十三歳で亡く
なったことがきっかけです。かけがえのない大切な人を突然失い、大変なショックを受
けました。経営どころか、それこそ何もかもが手につかぬありさまだったのです。
そんなおり天理教の修養科で三か月ばかり勉強させていただいたのですが、勉強を始め
てすぐに「ああ、しまった」と後悔したものでした。もし私が、もう少し早く天理教に
出合っていたなら、母の死を遅らせることができた。母の「六十三歳で寿命を終える」
という因縁を、私の信仰の力で変えることができたはずだと思ったのです。
修養科では就寝は午前一時、起床は午前三時半でした。ですから昼間の授業が眠くてた
まらず、ほとんどの者が居眠りしていました。先生が、「便所掃除をしなさい。そした
ら眠気がとれる」とおっしゃるので、昼休みにみんなで便所掃除をしました。すると不
思議なことに、あんなに眠くてどうしょうもなかったのですが、もう眠たくなくなるの
です。「掃除には人の心を変える、何か不思議な力が宿っている」としか思えませんで
した。そんな体験をしたものですから、会社に戻ってからも便所掃除を続けてみようと
思ったのです。まず仕事の前に役員を始め、全社員が便所掃除に取り組むことにしまし
た。すると、それまで横這いだった業績が次第に上昇し始めたのです。どんどん利益が
上がるものですから、毎月ボーナスを支給していました。それからはもう便所掃除をや
めることができなくなったというわけですね(笑)。
「こんなこともありました。県内の大きな運送会社の経営者ですが、「事故が多くて困
っている」と、おっしゃるのです。その方は、それまでに、事故をなくすために、いろ
んな試みをしてこられたのですが、いずれもうまくいかなかったそうです。そこで私は
「運転手さんに、毎日洗車するよう指導されてはどうですか」と助言してみたのです。
その方は、さっそく私の助言を取り入れられました。そして後日、「急激に事故が減り
ました」と感謝されるのでした。このとき私は「掃除というのは凄い」「掃除は大事だ
」と、改めて認識したのです。
私どもにかぎらず一灯園、ミスタードーナツ、松下電器、その他、清掃を重視しておら
れるところはたくさんあります。また便所掃除を実践することで経営再建に成功された
経営者もおられます。掃除というのは、ほんとに大事ですね。
私どもでは現在、全国の営業マンが一日五軒、毎日お客様の便所掃除をさせていただい
ています。月に直すと約十万軒ですね。掃除は個人のみならず、組織活性化の究極の教
育。ご恩返しの勉強だと思っています。
井上 ナショナルの松下幸之助さんは晩年、松下政経塾を創設されましたが、塾生にはいつも
「身の回りの清掃ひとつ満足にできない者に、どうして天下国家の掃除ができるのか」
と、おっしゃっていたそうです。「掃除は人の心を変える。心が良い方に変われば人相
も良くなる。さらには行いも変わる。人間が変われば会社や社会も変わる」ということ
ですね。
ウォルト・ディズニーは遊園地事業に乗り出すにあたって、「人々に感動を与える場所
は、まず美しく清潔でなければならない」と、清掃に大変重きをおいた事業家です。当
時、遊園地は、どこでもゴミが散乱して、あまりきれいではなかったのですね。
私もアメリカ各地のディズニーの遊園地を調査に訪れたことがありますが、広大な敷地
には、ゴミひとつ落ちていません。ディズニーは園内の清掃を徹底することで成功した
例だと思います。そんなわけで私は掃除には国境を超えた普遍性、文化を超えて人類を
救済する、何か特別の力があるのではなかろうかと考えるのです。
天理教のお勤めで、「悪しきを払うて」と唱えますが、これは掃除のことをいっている
のではないでしょうか。お筆さきに「世界中胸の内よりこの掃除 神が箒や確かと見で
いよ」「一列に神が掃除するならば 心勇んで陽気尽めや」(3‐52、54)とありま
す。神がそのために箒として働くということだと思うのです。陽気暮らしと掃除は切り
離せないと私は思っています。
天理大学は今、「建学の精神の再生」ということで組織改革に取り組んでいます。しか
し、それが、四角の豆腐をただ三角にするようなもので、形は変わっても本質は何も変
わらない分けですから、形より中身の質を変えることに重点を置くことが大切でしょう
。形を変えることもさることながら、全教職員が「めいらく」のように三十分ほど早く
出勤して、便所掃除をするといいのではないか。「大学改革は掃除から始まる」という
わけですね。それがわかっていながら、なぜ私が率先してそれをいわないかというと、
私自身がまだ便所掃除を実践していないからです(笑)。
私はここ十数年、学生を引き連れインドなどで、土嚢で住居を築くという活動をしてい
ます。土嚢で造る住居は災害に強いのです。土嚢を作るには、手を汚す土と泥とを練り
合わせなければなりませんが、そのときに練る者同士、お互いに相手のスコップの動き
を見ながら、呼息を合わせて練るようにしないとケガをします。身体で「ねり合い」の
あり方を学ぶのですね。
また土嚢は一個、二十五キロくらいの重量があります。それを運んだり、あるいは叩き
上げるなどして円形の住居に積み上げていくのですが、その行為は限りなく自らを叩き
上げるという精神性をおびて行く。こういった経験を通して学生たちは、きっと何かを
つかんでくれるものと私は思っているのです。世の中には自らが肉体を動かすことによ
ってしか得られないものがあります。
このことから私は、経営において掃除というものが、すぐに業績アップに結び付かなく
とも社員を、つまり人間を変えるということに帰着することは、よく理解できます。
日比 ところが昨今は掃除を代行するという会社が現れまして困惑しています(笑)。
井上 これは知人から聞いた話ですが、ある小学校を見学に訪れ、トイレを視察したさいに案
内の校長先生に、「トイレの掃除は誰がしているのですか」と尋ねましたら、「業者に
任せています」との答えが返ってきたそうです。「なぜ児童にさせないのですか」と尋
ねると、「教育委員会から、トイレ掃除は衛生上の問題があるから業者に一任するよう
指示を受けています」と、おっしゃったそうです。大変な時代になったものですね。私
は、これでは子供の心も育たないと思いました。
日比 ある大手食品企業は、ロボットが夜を徹して工場内をくまなく清掃するそうです。ある
とき、そのロボットがばらばらになったハエの死骸を発見したそうです。すぐに担当者
に異常が知らされ工場のライン完全停止。死骸の捜索が始まりました。そして羽根、胴
体、脚など一匹分の死骸がそろいました。しかし、この工場では「これでもう安心」と
はならないのですね。ひょっとしたらハエの体液が商品に混入したかもしれないと、そ
れまでに生産した商品を全部廃棄するのです。それはもう徹底しています。さすがに長
年、お客さまの信頼を得ている会社だけのことはあると私はとても感銘を受けました。
井上 この会社では人間が楽をするためにロボットに清掃させているというのではなく、人間
よりもロボットの方が、こういった探知能力に優れているというので導入されたのでし
ょう。人間の目では、そうそう細かいところまでは、なかなか気付きませんものね。
日比 昼夜をわかたず工場を清掃し清潔、衛生を保ちたい。しかし、夜中じゅう人間が工場を
清掃して回るわけにはいきません。そこで清掃ロボットを導入されたと聞きました。
井上 さて話しは戻りますが、天理教教祖伝を読みますと、教祖の長男秀司先生は「田畑に出
る時にも常に紋付を着ていたので、村人たちは庄屋敷村の紋付さんと呼び親しんだ」と
あります。働くという場面において労働衣としては機能的ではない「紋付き」を着て行
商をされたということは、教祖は聖と俗の橋渡しということを、暗に示されていたので
はないか。紋付きが聖なるつとめの衣服にあとでなる分けですから。
紋付は聖、労働衣は俗ですね。「神一条」の精神の前には時間空間の相違による「聖」
「俗」の区分など一切ないということでしょう。そこで私は日比会長の経営理念は、ひ
ながたの道における「紋付さんの復権」でもあるのではないかと思います。
報恩・奉仕・繁栄
井上 欧米では企業の社会的責任ということが盛んに論じられています。わが国の経済同友会
も二〇〇三年の白書で「企業は、今までのメッセナ(社会貢献)を超えたレベルの新し
い思想を、企業経営の中核に位置付けるべきだ」と、企業の社会的責任について述べて
います。
つまり従来のように、ただ収益を上げるだけではだめで、社会的責任を通し社会に奉仕
するという姿勢が、企業にも要求される時代になってきたということだと思います。
日比 私は、会社のあるべき姿を「報恩・奉仕・繁栄」という言葉で表現しています。生涯を
完全燃焼するのが人間としての務めであり、宇宙の摂理だと考えています。宇宙の摂理
にのっとり、お互いに素晴らしい人生を築くためにも、道場である職場で己を鍛え、磨
いていかねばなりません。
そして、常々いろんな方からお受けする、あらゆる恩恵に報いる心を養うことが大事で
す。よく、「なぜ報恩ではなく奉仕を最初にもってこないのか」と尋ねられますが、人
間は恩返しをすることで、いっそうやる気が出てくるものです。やる気が出てきますと
、今度は奉仕をしようという気持ちが湧いてきます。まず恩返しすることが大事です。
井上 海外へ進出される場合、日本で蓄積された社風を、そのまま持ち込まれるのですか。そ
れとも異なる地域の歴史・文化や価値観を背景にして、独自の社員教育を創造していこ
うとされるのですか。企業とグローバリゼーションの問題についてご見解をお聞かせ下
さい。
日比 私どもでは過去二十数年にわたって、中国から研修生を受け入れています。「人手不足
を解消するためだろう」とおっしゃる方もおられますが、そうではありません。研修生
には、この機会にしっかり勉強してもらおうと、私どもにとって、ほんとうに大事な施
設、たとえばバイオ研究室とか、その他、あらゆる施設を全部公開し学んでもらってい
ます。また会社以外にも、彼らにとって必要と思えるところへは、積極的に連れていく
ようにしています。
「こんなによくしてもらっては困ります」と彼らはいいますが、私は「いや、そうでは
ない。かつて自分たちの先輩が、あなたたちの国に大変ご迷惑をお掛けしたので、今お
詫びしているのだ」と答えています。
結局は親神さまのおっしゃる、「世界中、皆兄弟」という教えを実践しているだけなの
です。国境などないと私は思っています。中国人であろうが、ブラジル人であろうが、
みんな同じ人間だという考えです。
今では私の方で研修した連中が中国に戻り、政府の要職に就いたり社長になったりと随
分、出世しています。なかには私どもの中国駐在員として活躍してくれるなど力になっ
てくれています。「与えて求めず」と言いますが、もし何かを求めての親切であったな
ら、こうはならなかったかもしれません。
井上 商品、あるいは技術面で「めいらく」の強さを挙げるとするなら何でしょうか。
日比 「ロングライフ技術」だと思います。これは、ひとことで申しますと商品の劣化を防ぐ
技術です。賞味期限を長く保ち、それによって、お客さまにより安全な商品を提供する
ことができます。たとえば牛乳の場合ですと現在、市販の牛乳の九割が一三〇℃前後と
いう超高温で殺菌処理されています。
これを私どものロングライフ牛乳では、さらに高温の一四〇℃で瞬間的に殺菌、その後
、無菌充填し、菌や紫外線を通さないアルミ五層の紙パックに詰めて販売しています。
普通の保存では牛乳は二、三日しかもちません。しかしロングライフ牛乳は三か月たっ
ても腐りません。
井上 それは凄い技術ですね。
日比 私は二十世紀の傑作は「人類が月に立ったこと」「どこにいてもカラーテレビを見るこ
とができるようになったこと」。そして日本国内では「新幹線の登場」だと思っていま
すが、乳業界の傑作は? と尋ねられたら迷うことなく「ロングライフ技術」と答えま
す。
井上 「めいらく」は、乳業界のトップを切って、それまでの牛乳瓶から紙パックに変えられ
たのですね。それはまたどうしてですか。
日比 昭和四十五年頃の話ですが、当時乳業界はとても過酷な労働条件下にありました。瓶は
保温性に優れ経済的ではあるのですが、重量があります。そのため配達人には相当な負
担が掛かっていたのです。配達した瓶の回収もしなければなりません。この現状を何と
か変えることができないものかと思っていたのです。そこで瓶よりもはるかに軽量で、
しかも牛乳を長持ちさせることができる紙パックに切り替えることにしたのです。
しかし瓶のコストが年間三百万円くらいに対して、紙パックの方は上質のピュアパック
が四千万円、普通の紙パックでも二千万円ものコストが掛かってしまいます。紙パック
にするのは、もう決まっていたのですが二千万円の方にするか、四千万円の方にするか
、なかなか結論が出ませんでした。ピュアパックが理想的であることは承知しているの
ですが、あまりにコストが掛かるため躊躇していたのです。
思案にあまって天理教へ相談に行きました。そのとき相談に乗ってくださった方は、業
界のことなど何もご存じない老齢のご婦人でした。そのかたが、「あなたがお客さんな
ら、どちらを選びますか」とお尋ねになるので、「上質の方です」と申し上げたら、「
それなら迷うことはないでしょう。答は出ているではありませんか」とおっしゃるので
す。
業界のことをご存じないから、こんなふうに簡単におっしゃるのだと思い、「しかし、
それでは会社が損をしてしまいます」といいました。すると、そのかたは、こうおっし
ゃったのです。「損をするのは会社であり、お客さんではないでしょう。お客さんが損
をしないのだから、それが一番いいのに決まっています」と。
その言葉に私は一瞬、ハッとしました。その後は迷いなくピュアパックに決めました 。
普通の紙パックを採用したメーカーは、その後、姿を消してしまいました。自分にとっ
て良いことが、お客さまにとっても良いことなのかどうか、経営者は常に自問自答しな
くてはならないと、この経験を通じて思いましたね。
井上 今のお話のように経営者は常に重要な決断を下さねばならない立場にあるわけですが、
そのような場合、日比会長は「熟慮断行」「即断即決」のどちらのタイプでしょうか。
日比 私の場合、後で会社の契機となった重要な事柄も、先方からやってくるという感じなの
です。あまり自分の方から積極的に動いたことはないのです。たとえば「スジャータ」
も営業マンの売り込みから生まれたものです。ロングライフ工場を稼動した年のことで
した。スウェーデンの業者から生クリームを小型容器に密閉する機械を買わないかと持
ちかけられたのです。
当時家庭では、まだ粉末クリームが主流で、このような容器に入ったフレッシュクリー
ムが受け入れられるとは思いませんでした。それに総額で五億円もの投資が必要だとい
うので断ったのです。ロングライフ工場をスタートさせたばかりで多忙に打ち過ぎてい
たのですが、なぜかいつまでたっても、その機械のことが脳裏を去らないのです。「な
ぜ、こんなに気になるのだろう」と思っていたのですが、ある日ふと、「これは、きっ
と創業者の御霊が機械の導入を勧めておられるのだ」と気付き機械を導入することにし
ました。もし、この機械を導入していなければ、「スジャータ」は誕生してはいません
でした。
ロングライフ技術に出合ったのも、思わぬことからでした。知り合いの乳業会社の経営
者が工場を新築しまして、見学に誘われたのです。行くつもりはなく、適当に聞き流し
ていたのですが、あまりにも、しつこく誘うので渋々出掛けました。で、見学が終って
帰りがけに、工場の一隅に梱包されたままで放置されている機械が、ふと目に留まった
のです。
「あれは何ですか」と聞くと、「牛乳を二か月間、防腐剤なしで保存することができる
機械だ。しかし使ってみたが技術的に課題が多く、使いものにならないから返品すると
ころだ」というのです。
それで私が譲り受け実験的に稼動してみましたが、やはり菌が発生するのですね。アメ
リカの機械メーカに持ち込んで修理したり、社員を渡米させ技術を習得させるなど起伏
はありましたが、昭和五十年にロングライフ工場を完成させました。
もし知人が強引に工場見学に誘わねば、ロングライフラインは生まれてはいなかったで
しょう。渋々ながらも見学に赴いたこと、普通なら人目に付かぬ工場の一隅に置かれた
梱包に、目ざとく気付いたこと、これらはすべて信仰のお蔭だと思っています。ですか
ら、私の場合、熟慮断行も即断即決もなく、ただ親神さまに導かれながら今日までやっ
てきたという感じなのです。
井上 現在、「スジャータ」は、どのくらい製造しておられますか。
日比 一日に一二〇〇万杯製造しています。これは世界一の生産量で、ポーションタイプのフ
レッシュクリーム市場の六五%を占めています。
井上 凄いですね。そのほかにも、いろんなユニークな商品を扱っておられますね。
日比 「ソフトアイス」の愛称で人気を集めている商品に「スジャータTOMI」があります
。ソフトクリームの温度はマイナス四、五℃、アイスクリームがマイナス二〇℃くらい
なのですが、この商品は中間のマイナス一二℃で、ソフトクリームより溶けにくく、ア
イスクリームよりなめらかな食感です。このソフトアイスにも無菌技術が使われていま
す。
井上 ソフトアイスの機械なのですね。
日比 ええ。抽出機とともに業務用に販売しているのですが、ワンカップ方式でロスが出ず操
作も簡単です。それに機械の洗浄も不要です。この一台で抹茶、バニラ、その他、豊富
なバリエーションのソフトアイスが抽出できます。この機械も売り込みでした。
井上 「スジャータIFCコーヒー」の保存技術も開発されたそうですね。
日比 コーヒーの生命はアロマという香気性成分にあります。ところが、この香気性成分は生
豆を焙煎すると、大豆の約二〇倍の量のガスを輩出するのです。そのた袋詰めのさいに
ガスが充満して袋が破裂してしまいます。
私どもは豆を焙煎後、ただちに急速冷凍することで香気性成分を豆の内部に包み込むこ
とに成功しました。窒素置換包装という技術を施し長期間の鮮度を保つことができるよ
うにしたのです。酸化、劣化しないから健康にもいいですよ。この製法技術は国内外で
特許が認可されています。
井上 波動研究所を併設しておられますね。私も会長にお目に掛かる前に、研究所で波動によ
る健康検査を受けてきましたが、検査の結果が、よく当たっているので驚いています(
笑)。
日比 波動測定に用いる、この機械は「ライフフィールドテスター」といって、物体の超微弱
な磁場、波動を測定し数値化できるという大変素晴らしい技術を備えています。テスタ
ーの上に手を置くだけで、その人の健康度が測定できます。また、その商品、薬などが
、ほんとうにその人にとって良いのか悪いのか、数値によって判定できます。
たとえば一〇〇%果汁と偽っても、このテスターで検査すると、すぐにわかります。私
どもは、この機械を商品に活用していますが、顧客や来社された方の健康測定もさせて
いただいているのです。といいますのは、この機械には身体の情報を水に転写させる能
力があり、そうして作られた水を飲むことにより自己治癒力を高め、病変を改善するこ
とができるからです。
井上 「波動」ビジネスには怪しげなものも多いですね。「めいらく」の場合、ビジネスでは
なく人々の健康を願うという社会貢献から出発されているところが素晴らしいですね。
実証を積み重ね、さらに思想や哲学的なものを、そこに加味していかれるなら、波動医
学はインドの伝承医学であるアーユルベーダーに匹敵するものに育つと思います。
先ほど研究員の方に、「情報水を英語で何と説明されていますか」とお尋ねしましたら
、「いや、まだそこまでは考えていません」とおっしゃるので、「世界を視野に入れ今
から、英語での説明を考えておかないとだめですよ」といったのですが・・・(笑)。
このような素晴らしい研究は、どんどん世界に発信していくべきですね。大分、データ
も集まっていることでしょうし、そのうちに外国から見学者も来られると思います。
健康奉仕ということでいえば、「めいらく」はバイオ技術で開発した「蓬莱」という無
臭ニンニクを無料で配っておられます。これも凄いことだと思います。
日比 五十歳以上の方に無償でお配りしています。
井上 なぜニンニクなのですか。
日比 十数年前、個人的にある方から無臭ニンニクをいただきまして、使ってみると大変いい
のですね。たまたま身近に病人がいまして無臭ニンニクを送ってあげたのですが、病気
が治ったのです。これは凄いと思いまして、さっそく、その製法を買い当社独自の製法
を加えて出来たのが発がんを抑圧する「アホエン」という成分を生成する無臭ニンニク
「蓬莱」です。
「蓬莱」を飲んでいただいたら老人ボケの予防にもなります。今後、百万人まで無償で
お配りするつもりです。多くの人々の健康に寄与することができ、それがひいては私ど
もの商品の宣伝、購買につながるのだと考えると、「蓬莱」を無償でお配りすることな
ど安いものです。
井上 まさに「人を助けてわが身を助く」ですね。きょうは、ご多忙のなか、貴重なお話をお
聞かせいただき、ありがとうございました。
日比 ありがとうございました。
プロフィール
(ひび・たかよし)
めいらくグループ
名古屋製酪株式会社
代表取締役会長
昭和3年、静岡県に生まれる。旧制中学卒業後、行商、露天商を経て。同21年、個人商店とし
て生クリーム製造販売。同27年、名古屋製酪株式会社設立。「最高の品質を最低の価格で」を
モットーにコーヒー用フレッシュクリーム「スジャータ」、「IFCコーヒー」など数々のヒ
ット商品を生む。健康と波動に関する研究施設を社内に設立。著書に「波動を知って100歳を
得よう」など。天理教の布教師、教会長の資格も有する。
井上 昭夫(いのうえ・あきお)
昭和11年生まれ。天理高校、ハワイ大学卒業。おやさと研究所所長、教授。天理大学地域文化
研究センター長、教授。国連UNITAR特別上席フェロー。国際経営文化学会副会長。著書
に「世界宗教への道―異文化伝道入門」「こころの進化」「『グローカル』マインドと『宇宙
意識』」など多数。
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